12月20日の深夜4時頃、アニメを視聴していた私は、散らかりきった部屋の片隅にイニストラードのパックが転がっているのを見つける。カントクさん主催忘年会のボーリング大会の商品のうち1パックである。
忘年会楽しかったなぁなどと思い起こしていたとき、この後の悪夢のような出来事の引き金となるあるひとつの考えが脳裏をよぎった。

「このパックには《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》が入っているかもしれない」

何の根拠もない憶測に私の脳は取り憑かれてしまう。こうなってしまっては期待は膨らむばかりである。別に瞬唱の魔道士じゃなくてもいい。情け知らずのガラクでもよいし、ヴェールのリリアナでも良い。聖トラフトの霊も良いかもしれない。いずれにせよ、欲しい。普段ならドラフトで3-0しなければ手に入らない代物も、今ならこのパックを剥くだけで自分のものになるかもしれないのだ。なんと素晴らしいことだろう。
しかしここで私の小さな脳が理性を発揮して警告を発する。ドラフト用のパックを剥いて後悔しなかったことが一度でもあったか。あのときも、あのときも、パックを剥いたときは毎回後悔している。軽いトラウマともいえる経験の数々が思い起こされ、やっぱりやめたほうが良い、と理性が結論を出した。その直後。

妖艶なプレインズウォーカーが描かれた袋が、バリバリと音を立てて引き裂かれていた。

暴走する期待の前には理性など焼け石にかける水の如き無力さであった。

そして、パックから現れたレアカードは《邪悪な双子/Evil Twin》。その鋭い視線は欲望を見透かしてるかのように感じた。

このままでは終われない。私は早くも次のパックを掘り出してきた。我が家に残るパックは8パック。ドラフトをするにしても3の倍数でないと切りが悪い。あと2パックは剥いていいのではないか。一度剥きだした手はもう止まらない。獣の手つきでパックを剥く、パックを剥く。
計3パック剥いた時点でレアは《邪悪な双子/Evil Twin》、《月桂樹の古老/Elder of Laurels》、《荘園のガーゴイル/Manor Gargoyle》
当然のように最悪の結果である。破かれた袋では悪魔が嘲笑を向けている。
非情なな現実を目の当たりにし、絶望に打ちひしがれる中、しかし私はひとつの活路を見出した。

あと3パック剥けばシールドプールが完成する。それでシールドの練習をすればこのどうしようもないレアたちと空回りした欲望のはけ口になるのではないか。

なんとかして立ち直りたい私にはこの上ない名案に思えた。
そうと決まれば善は急げ、私はすぐに新たなる3パックを手にし、勢い良く剥く。
3パック。《断崖の避難所/Clifftop Retreat》、《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》そして最後は《流城の貴族/Stromkirk Noble》
妖艶なプレインズウォーカーのご加護か、ここに来て欲望の女神に目をつけられたのか、結果は思いの外良かった。今までパックをひとつ剥くたびに味わってきた苦痛も少しは癒えたように感じた。

極楽浄土とはここのことだったのか、と私は多大な高揚感を持ってシールドデッキ構築にとりかかったのであった。

『シールドプール』

《アヴァシンの巡礼者/Avacyn’s Pilgrim》
ガツタフの羊飼い/Gatstaf Shepherd》
2《暗茂みの狼/Darkthicket Wolf》
《エストワルドの村人/Villagers of Estwald》
《月桂樹の古老/Elder of Laurels》
《墓所の茨/Grave Bramble》
《ただれ皮の猪/Festerhide Boar》
《灰毛ののけ者/Grizzled Outcasts》
《赤子捕らえ/Kindercatch》

《捕食/Prey Upon》
《昇る満月/Full Moon’s Rise》
《蜘蛛の掌握/Spidery Grasp》
《骨までの齧りつき/Gnaw to the Bone》
《願い事/Make a Wish》


《宿命の旅人/Doomed Traveler》
《無私の聖戦士/Selfless Cathar》
《銀筋毛の狐/Silverchase Fox》
《物騒な群衆/Unruly Mob》
《修道院の若者/Cloistered Youth》
2《悪鬼の狩人/Fiend Hunter》
《声無き霊魂/Voiceless Spirit》
《村の鐘鳴らし/Village Bell-Ringer》
《忌まわしきものの処刑者/Slayer of the Wicked》
《修道院のグリフィン/Abbey Griffin》
《スレイベンの純血種/Thraben Purebloods》

《緊急の除霊/Urgent Exorcism》
2《邪悪の排除/Spare from Evil》


《流城の貴族/Stromkirk Noble》
《灰口の猟犬/Ashmouth Hound》
《血に狂った新生子/Bloodcrazed Neonate》
《交差路の吸血鬼/Crossway Vampire》
《ガイアー岬の災い魔/Scourge of Geier Reach》

2《霊炎/Geistflame》
2《噛み傷への興奮/Furor of the Bitten》
《業火への突入/Infernal Plunge》
《収穫の火/Harvest Pyre》
《古えの遺恨/Ancient Grudge》
《貫かれた心臓の呪い/Curse of the Pierced Heart》
2《轟く激震/Rolling Temblor》


《吸血鬼の侵入者/Vampire Interloper》
《荘園の骸骨/Manor Skeleton》
《グール起こし/Ghoulraiser》
《金切り声のコウモリ/Screeching Bat》
《マルコフの上流階級/Markov Patrician》
《モークラットのバンシー/Morkrut Banshee》
《流城の巡回兵/Stromkirk Patrol》
《苦心の魔女/Bitterheart Witch》

《夜の衝突/Bump in the Night》
2《死の重み/Dead Weight》
《夜の犠牲/Victim of Night》
《骸骨の渋面/Skeletal Grimace》
《死体の突進/Corpse Lunge》
《忘却の呪い/Curse of Oblivion》


《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》
《不可視の忍び寄り/Invisible Stalker》
《要塞ガニ/Fortress Crab》
《その場しのぎのやっかいもの/Makeshift Mauler》
《スカーブの大巨人/Skaab Goliath》

《閉所恐怖症/Claustrophobia》
《禁忌の錬金術/Forbidden Alchemy》
2《血まみれの書の呪い/Curse of the Bloody Tome》
2《ルーンの反復/Runic Repetition》
《恐るべき妄想/Frightful Delusion》

その他
《邪悪な双子/Evil Twin》

《片目のカカシ/One-Eyed Scarecrow》
《荘園のガーゴイル/Manor Gargoyle》
《霊捕らえの装置/Geistcatcher’s Rig》
《アヴァシンの仮面/Mask of Avacyn》
《継ぎ当ての翼/Cobbled Wings》
《肉屋の包丁/Butcher’s Cleaver》

《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》
《断崖の避難所/Clifftop Retreat》

非常に強いプールであるように見える。
まず、《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》《月桂樹の古老/Elder of Laurels》という爆弾レアと2枚の《悪鬼の狩人/Fiend Hunter》《忌まわしきものの処刑者/Slayer of the Wicked》といった優秀除去クリーチャー、その他粒ぞろいのクリーチャーを詰め込んだ緑白デッキがノータイムで組める。
できたデッキがこちら

『緑白ガヴォニービート』
○クリーチャー19
《アヴァシンの巡礼者/Avacyn’s Pilgrim》
《ガツタフの羊飼い/Gatstaf Shepherd》
2《暗茂みの狼/Darkthicket Wolf》
《エストワルドの村人/Villagers of Estwald》
《月桂樹の古老/Elder of Laurels》
《ただれ皮の猪/Festerhide Boar》
《灰毛ののけ者/Grizzled Outcasts》
《宿命の旅人/Doomed Traveler》
《無私の聖戦士/Selfless Cathar》
《銀筋毛の狐/Silverchase Fox》
《物騒な群衆/Unruly Mob》
《修道院の若者/Cloistered Youth》
2《悪鬼の狩人/Fiend Hunter》
《声無き霊魂/Voiceless Spirit》
《村の鐘鳴らし/Village Bell-Ringer》
《忌まわしきものの処刑者/Slayer of the Wicked》
《荘園のガーゴイル/Manor Gargoyle》
○スペル4
《捕食/Prey Upon》
《蜘蛛の掌握/Spidery Grasp》
《継ぎ当ての翼/Cobbled Wings》
《肉屋の包丁/Butcher’s Cleaver》
○ランド17
《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》
8《森/Forest》
8《平地/Plains》

飛行が少なく、殴るデッキなので《片目のカカシ/One-Eyed Scarecrow》より優先して《継ぎ当ての翼/Cobbled Wings》を採用した。
ただ予想以上に飛行に弱かったので《村の鐘鳴らし/Village Bell-Ringer》は《片目のカカシ/One-Eyed Scarecrow》でも良かったかもしれない。

残るプールでまだまだ組めそうだったのでもうひとつ組んでみた。

『赤黒t青コントロール』
○クリーチャー12
《流城の貴族/Stromkirk Noble》
《灰口の猟犬/Ashmouth Hound》
《血に狂った新生子/Bloodcrazed Neonate》
《交差路の吸血鬼/Crossway Vampire》
《ガイアー岬の災い魔/Scourge of Geier Reach》
《吸血鬼の侵入者/Vampire Interloper》
《グール起こし/Ghoulraiser》
《金切り声のコウモリ/Screeching Bat》
《マルコフの上流階級/Markov Patrician》
《モークラットのバンシー/Morkrut Banshee》
《邪悪な双子/Evil Twin》
《その場しのぎのやっかいもの/Makeshift Mauler》
○スペル11
2《霊炎/Geistflame》
2《噛み傷への興奮/Furor of the Bitten》
《収穫の火/Harvest Pyre》
2《轟く激震/Rolling Temblor》
2《死の重み/Dead Weight》
《夜の犠牲/Victim of Night》
《禁忌の錬金術/Forbidden Alchemy》
○ランド17
8《山/Mountain》
7《沼/Swamp》
2《島/Island》

除去でコントロールしつつ《噛み傷への興奮/Furor of the Bitten》をつけたクリーチャーで殴る。これもなかなかグットデックとなった。
ゾンビ2体しかいないのに入ってる《グール起こし/Ghoulraiser》は意味が分からないし、《霊捕らえの装置/Geistcatcher’s Rig》が入っていないのもよく分からない。

早速2つのデッキをスパーしてみた。

一人で2つのデッキを回すのは、見た目こそ非情に寂しい光景であるが、なかなかに楽しい。特にリミテッドのデッキをプレイするのは初めてだったので新鮮だった。

緑白の圧倒的な優勢との予測に反して、どのゲームも、1ターンを争う白熱したものになった。緑白は《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》がひたすら強く、《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》と《月桂樹の古老/Elder of Laurels》含むクリーチャー3枚、《継ぎ当ての翼/Cobbled Wings》の他全部土地しか引かずに勝ったこともあった。
赤黒t青は地上を止め、《金切り声のコウモリ/Screeching Bat》か《吸血鬼の侵入者/Vampire Interloper》に《噛み傷への興奮/Furor of the Bitten》をつけ5回殴るのが強かった。また、相手の《悪鬼の狩人/Fiend Hunter》になる《邪悪な双子/Evil Twin》はまさに邪悪だった。

7ゲームほど行ったころにはしばらくの時間がたっていた。
カーテンを開けると眩しい光が目に入り、外の冷たい空気が伝わってきた。
窓から見る風景は少し彩度が低く、冬の朝を感じさせる。
そう、太陽が上り、夜は更け、朝が来たのだ。
人の心を欲望の塊に変えてしまう6つの小袋に翻弄された長い夜は、ついに終わった。

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